演出を終えて
○人間椅子 西野孝子
乱歩の作品は10年前にも上演しましたが、後で全く違ったイメージが自分の中で湧いていたことを憶えています。
今回思いがけずこの人間椅子の演出をさせてもらえ、以前思い描いていたままに仕上げさせてもらったことをとてもうれしく感謝の気持ちでいっぱいです。
特にこだわった色の赤と黒、モダンに大人っぽく重みと艶のある語り。7人の精霊が語る時あたかも自分がコンダクターの気分でした。オーケストラの指揮者が楽器の音を引き立てるのはきっとこういう感覚なのかしらと思いながら...。
ショパンのプレリュード15番「雨だれ」に巡り逢えたのも幸運でした。不安な不気味な部分の含もそのまま使えましたから。知られすぎる曲とは思いましたが、安心して作品に聞き入ってもらえると思ったからです。
三つの作品の幕開きと締め括りに主宰の西垣先生を充てられたのも35周年にふさわしい形となりました。
これからもより深みのある語りをめざしていきたいと思っています。
○イービーのかなわぬ望み 柳沢佐和子
はじめに、大好きな小川洋子さんの透明感のある世界を壊さないように伝えたい、との思いがあった。残酷で哀しいけれど、ロマンチックで不思議なこの物語を、想像力を喚起させる朗読劇でこそ味わってもらえたら......との思いがあった。
感覚的な私の演出は、朗読パートと配役に悩み考えながら、実はその段階でほぼ終わっている。あとは、出演者たちが自由に個性と実力を発揮してくれるのを待つだけだ。
今回イービーのパートを受け持ってくれた中原は、稽古初めからイービーを理解し咀嚼していたので、私が改めて注文を出す必要はなかった。少年の姿のまま老成した人生、生きることの深い哀しみを背負った者の持つ優しさを、感じさせてくれた。福寿楼の椅子には既に泉谷オーナーが座っていた。そして新米ウェイトレスの、真木と久保田は期待通り初々しい魅力で舞台に彩を与えてくれた。反省点はあるものの、「イービーが好き」と帰っていかれたお客様たちがいたことに、安堵と喜びを感じました。
○刺青 中原茂々代
無事に終わってほっとしているのが正直な気持ちです。
朗読についてはそれぞれ個性的で実力も備わった演者たちなので、多少のダメ出しはありましたが、いわばやりたいようにやっていただくことを基本にして、話し合いをしながら、お互いに折り合いをつけた、という所でしょうか。
音については、ほぼ自分の考えていた感じになったと思います。宮本さんに感謝。
照明についても、なかなか良かったのではと思っています。これも新田さんに感謝。
舞台美術については、最後に浮かび上がってくる蜘蛛らしきオブジェなんですが、これは板坂先生の労作で、アンケートでは賛否両論ありましたが、それは世の常なのです。
自分自身が楽しみにしておりましたので客席で見られなかった事が残念です。
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